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独り言は控えめに

ちょうど今くらいの時期だったと思う。
姉が久しぶりに実家に帰って来ていて母と何やら言い争ってた。
母が痺れを切らして席を立つや否や、どうしたのか姉に伺ってみると一人暮らしのところを引き払って家に戻って来るのに対して言い争っていたみたい。
確かに一人暮らし始めてまだ一年も経ってないくらいだったので、やっと独り立ちしたと思っていた母からすれば愛の鞭の気持ちだったのかもと苛立つ姉の顔を見ながら私は思っていた。
かく言う私はそろそろ一人暮らしを始めたいと思っていたので、良いなぁお姉ちゃん、私は一人暮らし始めたくて両親とバトってるよ笑と言うと、姉はキョトンとし、あっ そう。と言った。
そして、あんたが試しに住んでみれば丸くおさまるじゃんね。と言い、なんやかんやで姉の一人暮らししていた所に私が試し住みする事になった。

 

姉の一人暮らしのところに行く道中で、これから始まる一人暮らしに心膨らみながら色々話したが、姉が、あんた家に一人で居る時に独り言とか言うタイプだっけ?と聞いて来たので、いや、言わんな。と言ったら良かった。と言っていた。
加えて、部屋で一人の時は独り言とかは言わない約束をして欲しいとの事。
姉の口ぶりに違和感をかんじたので、何故か聞いたが、何でもだよ。とはぐらかされた。
その時は壁が薄いとかかな?とこれから始まる新しいスタートに気分が昂っていてあまり気にも留めなかった。

住み始めてから気が付けば3ヶ月ほどが経っていた。
一人暮らしは順調そのもので、私は自由を満喫していた。
気になることといえば、壁鳴りが気になる事くらいだった。
特に私が部屋で鼻歌を歌っている時が特に酷かった。

壁ドンとかではない。
壁ドンではなく、パチ! パキッ!とまるで歌に反応するかのように壁ではなく空間自体が鳴っているような感じだった。
ただそれだけ。
姉が言ってた事もあるので、こういうのが気になる人はダメなのかも?と思った。
私が歌うのを止めると音も止んだので私は気にしなかった。
あの夜のことが起こらなければ。

ある夜、ユニットバスで髪を洗い流しながら鼻歌を歌っていた。
その日は特にご機嫌でテンション高めで歌っていると、シャワー中でもわかるくらいパキパキ!と音も反応していたが、気にしなかった。
それで、排水溝に溜まった髪を引っ張り出して捨てようと指を突っ込み取り出してみると、30センチ程の長い髪が出て来た。
姉も私もショート寄りの髪型だったので、色々と気持ち悪さを感じたが、ご機嫌だったので
長っ。誰のやねん笑と突っ込みをいれてしまった。
そぉ"れ"、わた"しの"。
と声がした。
お風呂のスモークガラスの向こうに明らかに誰かが立っていた。
何とか、気を確かに保とうと、普段通りを、気づかないふりを装おうと鼻歌を歌うとパキキ!とまた空気が鳴り出した。
それでも、病は気からじゃないけども、まともに取り合ってはいけないと思ったので、いつも通りのシャワーのルーティンを終えてシャワーを終えて、部屋で目を開けたままドライヤーをしたが、改めて意識するとかなり居心地が悪い気がした。
視線をガンガンに感じた。
映画館で上映中にスマホが鳴ってしまった時のような居心地の悪さ。

まだ終電までは数本あったので、直ぐに飛び出して実家に向かった。
24時近く実家に着くと、家族がポカンとしていたが、姉は引き笑いしていた。
やっぱ出た?
うん。
と短いやりとりをし、その部屋には私達姉妹が戻る事はなく、引き払った。

鬼子虎くん.png
血しぶき1.png

こういう話を集めている身からすればもっと向き合ってもらってその先を知りたい欲もあるのだけどより奥まった話を聞く事はかなり稀で。というかより奥まった所まで行って帰って来た人があまり居ないのかもと思った次第。
南無南無。

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